取材日記:「あなたの知らない池袋駅 徒歩7分」のこぼれ話

ロケ時期:2016年1~2月 担当:ディレクター小倉

   「奇跡の出会い」
 
 直感を信じる方である。それでよく大コケすることもあるが。 池袋の企画の話がでたとき、電車の乗り換え以外はほとんど縁のない駅だったので、まずあてもなく池袋を歩き回り、我が直感に訴えてくる景色はないかと探し回る。池袋西口駅前を見回したときに、真正面の古めかしいビルが目に飛び込んできた。これだけの巨大ターミナルの真ん前にしては、なんとも不思議な景色ではないか、となんだか心惹かれる。
 そこで、ビルのオーナーの連絡先を探して電話したが、なかなか電話に応答がない。
 やっとご高齢の男性の声が聞こえた。「今接客中」とにべもない。「では改めます」。多分電話では話にならない。直接会いに行った。しかしよくよく考えるとこの取材意図を誤解なく伝えるのはなかなか難しそうだ。間違ってもボロいビルをタレントが訪ねて面白がるというような、そんじょそこらのバラエティと思われてはいけない。この昭和の建築のすばらしさを多くの皆様に伝えたいがためという崇高な志をわかって頂かねばならない。どう言おう、ああ言おうとぐるぐる考える。こう見えておじさんは気が弱いのである。
 訪ねたオーナーは、ビルの屋上のプレハブの奥の事務所にぽつんと一人座っておられた。聞けば80代という。そして寡黙である。かねてよりぐるぐる考えてきた取材趣旨をぐだぐだと喋っているうち、あまりの反応のなさに自己嫌悪に陥ってくる。
 しかしなんとか、渋々という感じだが、撮影のお許しをいただいた。
 
 その後このビルのことを調べているうちに驚くべき事実が判明する。
 ビルが竣工したのは昭和37年、これは私の生まれた年だ。しかもその年の9月、誕生月まで私と同じではないか。そう思って改めてこのビルを仰ぎ見て、深い感慨を覚える。ああ我が兄弟、お互いけっこうな年月を過ごしてきたものだ。オレが君に心惹かれたのは偶然などではない、これぞ運命、これこそ奇跡の出会いではないか。君をボロなぞと言うのは、まさに天に唾する所業である。
 すっかりうれしくなって次にオーナーに会った時
「私このビルと同い年で、しかも同じ9月生まれなんです。」
「ああそう。」初めて会話になった…ような気がした。
 おそらくオーナーもこの偶然に驚き、この取材になにかしらの縁を感じてくださっているのではないか。いや、そうに違いない。
 それが証拠に、次に訪問した際に「これね」と差し出したスクラップブック。 あれほど「どこにあるのかわからない。」と仰っていたビル建設当時の写真をなぜかどっさりとお貸しくださるという。これは素敵な写真だった。このビルが当時どんなに先進的なものとして街行く人の目に写っていたのかがまざまざとわかる。さらにビルに入っていたレストランの店内で家族が食事する写真があり、ああこの子供はあの頃の自分と一緒ではないか。
(詳しくは番組を御覧じあれ!)
 
 いつもニヒルなAD山本くんに写真を見せて自慢した。
「オレはこのビルと同い年で9月生まれまで同じなんだぞ、すごい偶然だろ。」
山本ADニヤニヤしながら「やっぱり古いんですね〜。」 そっちか!

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